面白く読めました。犯罪者から一流のシェフになる自叙伝です。文学臭のしないものは実に爽やかでよろしい。自分で書いたものなら、たとえ刑務所で遅れて高校卒業の資格を得たとしても、彼にはもともとこの方面の才能がある。覆面ライターが書いたものなら、アメリカの出版界はベストセラー本を出すコツをよく知っている。この本の題名「Cooked」の意味は、解説者によると、『調理された、火が通ったが本義だが、「へばった」「こてんぱんに」やられたという俗語的な意味もある。そして、おそらく、「crooked」という形容詞(「ねじくれた」「密売の」を意味する)と韻を踏んでいる』ということです。
ジェフ・ヘンダーソン は黒人であり、小さい時から盗癖があり、中学生ころには先輩の手ほどきで、自動車泥棒や薬の売人になります。先輩が刑務所に入ると、彼は街で一番の薬の売人になり、二十歳ころには派手な自動車を何台も買い、女も寄ってきて、彼女らと一緒にラスベガスに行き、ホテルの中のボクシング会場のリングに近いところの席で大金を賭けたりしています。ところが二十歳過ぎ、覚せい剤密売で捕まり19年の刑が科されます。刑務所で料理に目覚め、向学心に目覚め、高校卒の資格を取ったり、年老いた白人の受刑者から褒められて自信がついたりします。新聞やテレビも政治欄とかそういうものを読み見たりし、スポーツ欄やテレビドラマなど見なくなります。厨房でも料理長が感心するくらい働きます。刑期の19年が10年に短縮されます。アメリカでは他のものを密告すれば刑を免れるという制度があります。刑の短縮もそれに近いものですが、この本ではぼやかしています。真面目な態度が考慮されたのかもしれません。
出所してから持ち前の熱心さで料理人の仕事にありつけます。妨害もありましたが、とうとうラスベガスの有名なホテルの黒人として初めての総料理長になりました。熱意ああるところに成功ありです。彼の成功と裏腹に彼の先輩は誰かに銃で撃たれて殺されました。ジェフ・ヘンダーソン は黒人の子供たちに自分の生い立ちを話し、犯罪者集団に入らないでほしいという講演も仕事の合間にしています。