フランソワ。ヴィドック 、1775年生まれ、1857年「困窮」のうちで亡くなったフランス人。パン屋の息子で、小さい時から盗癖があり、親の金を盗み蓄電するが、街で有り金をだまし取られ、サーカス団に入るがしごきで這う這うの体で家に逃げ帰ります。しかし真面目にパン屋を継ぐ気がなく、再び家出し、軍隊に入ったり、また逃亡兵ななったりして、今から見ると大した罪でないことで捕まり、刑務所に入れられるが、6回も脱獄し、そこを見込まれアンリ警察部長が彼を密偵に仕立てます。何しろ何回も刑務所に入っているのですから、悪い奴らとのつながりもでき、悪の知恵もつきます。フランソワ。ヴィドックは言っていますが、刑務所とは更生する所ではなく、悪を深める場所であるということになります。
フランス革命が1789年ですからフランソワ。ヴィドックが14歳の時です。王政貴族社会が終わり、ブルジョワキーが勃興し、産業革命が起こり、パリなどに田舎から人が流入してきます。それに伴って犯罪も増えていったのでしょう。フランソワ。ヴィドックが密偵になったのは1809年で、世情も沸き立つような状態で、ギロチンの刑が行われるときは、その広場には多くの人々が集まり、飛び散る血で喝采を叫んでいました。フランソワ。ヴィドックもギロチン送りをした二人の犯罪人のことを書いています。居酒屋兼宿屋の主人と無職の男がつるんで、金を持っている旅人を何人も殺して金を奪った事件です。やはり人を殺したとなると、悪夢に苛められます。ヴィドックに捕まったことで、ほっとした気持ちになっています。この二人は捕まえたくれたことにヴィドックに感謝するほどになっています。無職の男はこのようなことも言っています。
「俺にゃ二人がガキがいるが、あいつらがグレるようだったら、早いところ息の根をとめてやれと女房に言いてぇな。苦労して悪事をするより、同じ苦労してマトモナことをしていたら、こんなところにはおらなんだはずだ。もっと幸せだったろうよ」
バルザックもユーゴーもヴィドックをモデルにした小説を書いています。ある面この時代はフランスの青春時代と言えましょう。面白くて懐かしい時代です。ちょうど日本の高度成長時代を彷彿させます。