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読書

西端真矢 歴史を商う


       バブル時期、銀行の提案で、自社ビルでもあり、貸しビルでもあった建物を壊し、再開発したのが間違いのもとでした。バブルがはじけ、テナント収入も減り、創業者・長坂金雄の手法、テナント収入で出版を補佐していくことができなくなったのです。とうとう自社ビルを売りましたが、借金は残り、大手企業との提携もありましたが、これまでお世話になった大学の先生や、読者からの寄付で、株式を買い取り、縮小しながらも、自主独立を果たして現在にいたっているということです。出版産業も衰退産業の一つで、年々売り上げ減っています。学術の本だけはある一定の需要があります。学者や大学や図書館が必ず購入するからです。そうかといって祖父の金雄時代のように笑いが止まらないほど儲かるわけではありません。現在では地道に歴史や書道に関する本で社業を続けています。

話としては衰退するときよりも、創業者の大活躍がおもしろい。長坂金雄の長坂は養子先の名前です。金雄の本当の父は斉木伊三郎といいますが、中農の出で、酒と女で失敗し、土地を売り払い、後妻であった金雄の母も金雄を捨てて逃げていきました。それで金雄は親戚に預けられたり、東京にいた伊三郎の父や弟の元に預けられます。そこには前妻の伊三郎の子供もいます。この伊三郎の父が弟の子供と、伊三郎の子供を差別するので、前妻の子の長女が自分の弟や金雄を連れて入水自殺をしかけます。ところが京都宝石商に助けられ、長女はこの店に引き取られました。金雄は寺の小坊主になりますが、いじめられ、死ぬ目にあい、そこを抜け出します。それで従兄弟の長坂の養子になるのです。子供のいない長坂にはよくしてもらい、金雄も畑仕事をして、養父母に尽くします。しかし東京への思いが強くなり、一旗揚げるために養父母先から出奔します。東京では銀行の外回りなどをし、友達が考え出した名士録の事業に参加します。大蔵省に入って、高橋是清との予約を取り付けたり、財界の大御所・渋沢栄一の予約も取ったりし、これをヒントにしてその後予約出版に目覚めるのです。臆せずこのような人物に会うことにより、人脈ができてきます。やがて学者とも知り合うことができ、これが歴史を専門にする出版社につながります。この明治時代先進国に追いつきたいという思いからものを学ぶ気持ちがつよかったのでしょう。出す本出す本が売れて、とうとう金雄は東京麹町に156坪ほどの土地を買い自社ビルを建設しました。金雄は自分が苦労した分、他人対してやさしいところが有ります。故郷で父母がなくなった朝鮮人の子を引き取り、育てています。アメリカ軍の空襲が始まり、金雄一家は牧原に疎開しましたが、この子は槙原に帰りたくないと言うので、このビルに残りました。隣家が空襲で火事になり、この子は溜めていた風呂桶の水や防火桶の水で何とか延焼を阻止したということです。戦後この人は印刷業をしています。単に成功して金持ちになったという話は感動しませんが、このようなエピソードがあれば、人物の厚みがわかり、思わず自分の厚みのなさに恥じる思いが出てきます。

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