[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
小さなことですが、この本の195ページに校正ミスがあります。「運中」と印刷されていますが、「連中」の間違いでしょう。
1572年からモンテーニュはエッセーを書き始め、亡くなる2,3年前の1589年まで、エッセーを書き加えたり、書き直したり、新しく書き加えたりしていました。ピエール・ヴィレーはこの期間のモンテーニュの思想の変遷を、モンテーニュが読んだ本と連動対比して研究しています。端的に言うとこうなります。
「1572年に、ストア哲学から出発し、長い探求の期間を経て、反対側の道徳哲学に移行していった。すなわち、自然の哲学に到達したのである」
これはブッタの思想変遷にも似たものになっています。初めは謹厳的、禁欲的、懐疑的思想から、人間の欲望をある程度肯定し、そうは言っても度が過ぎないように中庸を保つという考え方です。
ラテン語が自由に扱えた彼はまず雄弁の雄・セネカやキケロなど読み、ラテン語訳されたギリシャのピュロンの懐疑主義に触発されて、盛んに引用して初期のエッセーを形作っています。それが年を経るごとに、歴史上有名な英雄や論客の言動よりは、それよりは数段劣るかもしれないが、かけがえのない自分自身についての思索が大幅に入ってきます。自分自身を考え始めると、ああでもないしこうでもないし、古典の言うところの明快・簡潔とはいかないで、わき道に入り、この錯綜したなかで、途方にくれている状態になっているようです。しかしこのような中途半端な状態こそ、近代的人間の萌芽を見ることができるという評価があります。わからないものはあるけれど、どこまでわからないのか突き詰めてみようという科学精神の初期的なものも見えてきます。