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読書

藤井建司 ある意味、ホームレスみたいなものですが、なにか?


        東大生が自分を自己紹介するときによく使うフレーズに、「一応、東大ですが」というものがあるそうです。たぶんその後には、この本のタイトルと同じように、「なにか?」が省略されているのでしょう。これで周りのものが水戸黄門の印籠のように、へっへーとかしこまるのが目に見えるようです。私はこの本のタイトルを見て、東大を出て、落ちぶれ、ホームレスになった人のドキュメンタリーかと思いましたが、小説でした。

この小説の語り手は、ニートで、途中で大学も行かなくなった自閉している男です。ある日借金取立ての暴力団の男がこの家に乗り込み居座ります。彼の父親は失踪していて、随分前に仕事も止め、家のローンを払うために街金にカネを借りていたのです。この男が乗り込んできたお陰で、ニートの彼は外を出歩けるようになり、不良の妹は素行が良くなり、アル中の母親はまた女を取り戻し、この暴力団の男とセックスを楽しむようになります。父親を探し出せと命じられたこの小説の語り手は、父と関連する人々を訪ね歩き、今まで父と話し合うことも無かった彼が、これらに人々を通して、父親の違った面を知るようになります。父親はホモで、彼の母親が孫を見たいということで、仕方なく結婚して家庭を作ったが、仕方なく父親像を演じただけで、これによって妻はアル中に、息子はニート、妹は不良になったということで、このような家庭不適合な男が家庭を作るとこのようになるのだと暗に示しているようでもあります。

物理学に理論物理学があって、紙と鉛筆と数式でもって、宇宙や物質の根源を突き詰める学問がありますが、この小説も、所与の条件を入力して、動かしてみたらどうなるか、というような作り方をしているようです。私はこれを仮定小説とでも名づけたいと思いましたが、どの小説も大なり小なり仮定小説ですが、特にこの小説は、これとあれを組み合わせたら、どんなストーリーができあがるだろうかというものを狙っているように思われます。落語で言う三題噺とも言えそうです。

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