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野村幸一郎 日本近代文学はアジアをどう描いたか

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野村幸一郎 日本近代文学はアジアをどう描いたか


        「満韓ところどころ」で漱石は欧米の圧迫を感じ、友人の中村是公の推し進める満鉄の政策を是認しています。満州に日本から50万人も入植させて、満鉄の鉄道線路の周辺に住まわせ、満鉄への攻撃の阻止と、再びソ連が南下するすことを許さないとすることです。戦後我々はこのような植民地政策は間違いだったと教えられてきました。「アジアに多大な被害と苦しみを与えた」という論調です。日露戦争でやっと勝てたという時代で、朝鮮を礎にして、満州にまでも越権を伸ばそうとすることを、大方の当時の日本人で反対することはできなかったでしょう。たとえ先見的な目を持つ夏目漱石すら、日本のこの拡張は、西欧列国からの脅威に対抗するもので、自国の安全には欠かせないものだという思いがあったのでしょう。汚いクーリーを見る目も、同情心はなく、「不体裁」であると切り捨て、ちょうど福澤諭吉が言っているように、進歩のない朝鮮や中国を友として付き合うよりは、関係を断ち切ったほうがいいといった気持ちもあるようです。

現在も日本は大借金国ですが、日露戦争が終わった頃の日本は、世界からその戦費を借りていて、戦争終結後賠償金が取れるかと思いましたが、カムチャッカ半島の割譲と朝鮮の支配と大陸の鉄道の譲与を受けただけなので、その借金の支払いに大いに苦慮していました。小説・「それから」に、そのことによる、日本の事情も書いています。

「・・・日本対西洋の関係が駄目だから働かないのだ。第一、日本ほど借金を拵えて、貧乏ぶるいしている国はありはしない。この借金が君、何時になったら返せるかと思うか。こう西洋の圧迫を受けている国民は、頭に余裕がないから、碌な仕事ができない。ことごとく切り詰めた教育で、そうして目の回るほどこき使われるから、そろって神経衰弱になっちまう。話してみたまえ、大抵は馬鹿だから。自分のことと、自分の今日の、ただいまの事よりほかに、何も考えてはいやしない。考えられないほど疲労しているのだから仕方がない。精神の困憊と、身体の衰弱とは不幸にしてともなっている。のみならず、道徳の敗退もいっしょに来ている」

ちょんまげをしていた明治維新から40年ほど経って大国ロシアと戦争をしているのですから、国の存亡の危機を迎えていたのでしょう。今ではナショナリズムがよく思われていませんが、国が亡びるかどうかの時はインターナショナルにはなれないでしょう。この後日本はシナ事変、太平洋戦争と突き進みますが、夏目の言うように馬鹿になっていたから、そうなることは必然のように思われてきます。

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